花と幻

見たものを書き留める忘備録

2020/09/26 「時子さんのトキ」ソワレ

2020/09/26 「時子さんのトキ」ソワレを観た感想です。

 

完全に見終わった人向け。

残りの2公演や配信で観る予定の人は絶対に読まないでほしい。

 

 

 

 

 

 

 

こんなこと書くと逆に読みたくなるかもしれないけど、
まだ観てない人は本当に見ないでーーーー!
薄目で読むのもやめてー!
自分だけで味わう第一印象を大事にして、そしてそれを私に見せてておくれ…。
これを読んだ後にそう思って見返したらどう思ったか教えておくれ…。

 

あと、ほかの人の感想と随分異なる観方をしているので

時子さんに素直に感情移入して楽しめた人は読まない方が良いかも。
スタート地点がとても翔真に肩入れした状態で観ているので強いバイアスがかかっています。


ナチュラルにネタバレ。かなりのネタバレ。
最初から最後までネタバレ。

 

 

 

 

 

 

今回私の席は2階席の中央ド真ん中。

舞台の全て、奥の方まで見える席。

遮る物は一切無く、全てを神目線で見られる”神席”なので

オペラグラスはあまり使わずに全体の流れを俯瞰で観ることにして観劇しました。

 


時子さんのトキを見て最初は翔真がぜんっぜんクズじゃないなぁと思った。
むしろ素直な良い子じゃない…?と。

 
これは私が鈴木拡樹を無意識に贔屓して観てしまうからなのか?
しかしストーリーの中でもなんだか違和感がある。

  

お酒を飲んで荒れるといったような典型的なクズ描写は無い。

もっと言うと女関係にだらしないという訳でもなさそう。

(小夏さんについては旦那さんがいなければどうだったのかは分からないけれど、そこで手を出すのをためらう程度には常識があるか小心者)

と、いう訳でクズ三種の神器「飲む・打つ・買う」の「飲む・買う」はどうやらなさそう。

 

では「打つ」に関してはどうか。

今回翔真が時子さんからお金を借りる理由は

 

・パチンコ
・実家の借金を返す為

 

の二つのようだ。どうやらパチンコはやっているらしい。

だけど脚本的にはどっちかに絞ったほうがいいんじゃないの?そう思った。

クズならもっと「パチンコで勝ったら返す」とか言いそうなのにそれも全く無い。

 

 

翔真はNPO法人の柏木が時子さんの所へ行くことを知っていたにも関わず、事前に時子さんに告げることはしない。

口裏合わせみたいで嫌だ、と。

そしてどう考えても四面楚歌の話し合いの場にも逃げずに自らやってくる。

良い子にしたいのかクズにしたいのか全く分からない。 

 
さらに時子さんの旦那さんにも違和感。

 

・他所に女を作った。酒を飲んで暴力を振るうようになり離婚した。(ここうろ覚えなので訂正するかも)

・登喜は父に付いて行った。
・話し合いの席で暴力を振るったりはしていない。翔真の実家のことを調べて真実だとわかると素直に謝罪する。

(キレてるけど離婚したのに勝手に連帯保証人なんかにされたら普通はキレる)
・登喜に母親の借金のことは伝えていない。

 

登場人物に深みを持たせるのにしてもあまりにブレ過ぎじゃない?
このストーリーの主題って何なんだ??
なんでみんなそんな必死な熱量で時子さんを救おうとする?
翔真をクズとして扱い、関わらせないようにする?
(お金を借りた記録をしっかり取っていたのは翔真の方だったし、
ボイトレ代と偽ったのも実家への見栄の範囲でそれだけでクズとそしられる程のことと思えない。)
と混乱して観ていた。

 

 

もしかしてこの舞台、自分に合わなかったのかなぁ…なんて思っていた。

 

 

でも、最後に登喜が、ゲームが嫌いな訳じゃないと言った時に脳裏に閃いた考えがあった。
あれは、時子さんが語る”時子さんがそうあって欲しかった登喜”なんだ、と。

 


そうするとモヤモヤした気持ちがサーーーーと晴れて………
そしてこの物語が時子さんの一人称で語られる物語であることに気が付いた。
人物の詳細はすべて時子さんを通して語られる。
全ては時子さんを通して見た物語なんだ、と。

 

 

時子さんはごく普通の、推しをもつ私達と同じような存在だと思っていたけど本当にそうなのか?
時子さんを取り巻く人々よりももっと遠い視線で見つめたらどうなる?

 

 

私は時子さんという存在を恐ろしいと思った。
関わる人を「時子さんが”そうあって欲しい”人」に変えてしまう。変えようとしてしまう。
そして時子さん本人にはその自覚が全く無い。

時子さんという人のファンタジーは、実は最後まで一つも解けていない。
ファンタジーの対象が翔真から登喜へ変わっただけ。

悪い魔法が解けたのは翔真の方だった。

 

 

思えば登喜のコンクールで金賞を取った絵も時子さんがあれこれ口を出した作品だった。
ゲームに興味を示さなくて、絵を描くことに興味があって…そして才能のある息子。
それを実現するために時子さんはゲームを買い与えないし、絵や工作の制作に口を出す。
そして指摘されるまでほとんどその自覚を持っていない。
指摘されても結局自分を正当化して周囲がおかしいように話す。

 

離婚にしてもそう。
時子さんは勝手に旦那さんの携帯を見て浮気だと言ったけれど本当にそれは浮気だったのか。
旦那さんが”慰謝料”を払ったのはお金を払ってでも時子さんと離れたかったからなのではないか。
登喜の親権を取れたのも世間的に見て旦那さんには否が無かったからではないか。

 

登喜はどうしてお父さんに着いて行ったのか。
「お父さんに着いて行かないと会えなくなる気がした。」
たぶんそれは正しい。判断も正しい。
時子さんに着いて行ったなら登喜は父に会わせてもらえなくなったと思うし
父の悪い面を少しずつ聞かされ、ずっと時子さんの”ファンタジー”を背負わされる対象になったと思う。
幼いながらに登喜はそれに気が付いていたのではないか………。

 

 
翔真はどうだっただろう。
最初は目の前でチラシを捨てられてもそれを拾い上げ、控えめな宣伝をしてしまうような子だった。

福岡からギャラの低いオファーがかかった時に翔真は行かないと決めていた。
有名人が歌った場所だからといって、行ったところで採算は取れない。極めて冷静に判断をしていた。
それを勿体ない、有名人が歌ったところだ、と無理やりにお金を渡して行かせたのは…。

 

ボイトレに行けと口出しをされて声を荒げる翔真。
一見歌をけなされて怒りを見せたように思うが、
時子さんが自分に対してどんどん口出し・干渉をすること自体に苛立ちを感じていたのでは?

 

観客は時子さんが旦那さんに暴力を振るわれていたと思っているから
声を荒げる翔真を恐れて何とか機嫌を取るためにお金を工面しようとしたように考える。
だけど本当は、強引にお金の話を聞きだしているのは時子さんではなかったか。
それこそ相手の怒りや機嫌の悪さなどお構いなしに。
本当に暴力に怯える人は、こんな不躾な聞き出し方はできないんじゃないか……と私は思っていた。

 

今日は私の母も違う回を見に行ってたので時子さんと翔真の関係について話した。
(母も私と同じ感想を抱いたタイプ&表情がオペラ無しで分かる良席)

 

❝時子さんへの愛情は感じられなかった。お金貰ってて悪いなぁ。体で返せたらまだ気が楽なのにって感ありあり❞
❝私の席からは翔真は時子さんが嫌でたまらんとしか見えなかったよ❞
❝終始イライラしてて最初の出会いの明るい翔真が消えてた❞

 

時子さんは翔真からの恋愛としての愛は受け取らない。
それは時子さんの理想ではないから。
時子さんは自分の理想が成立するまで諦めてはくれない。

 

 

時子さんの在り方は「相手への依存」というよりも「相手の消費」だと感じた。
少なくとも翔真の8年は時子さんに振り回される形で消費された。
もし時子さんと出会わなければ早々に田舎に引っ込んで幸せになれたかもしれない人生の8年。
「時子さんのトキ(時)」
考えてみると恐ろしい。

 

大人なんだから自己責任、縁を切るのも自由。
そうは言っても時子さんは翔真をお金で雁字搦めに縛っているのです…。

 

 

さらに穿った見方をすれば、
時子さんはそろそろ自分の理想通りになりそうにない翔真に見切りをつける時期でもあった。
そこにあらわれた怪しいNPO法人。被害を訴える小夏。
だから”そう”なるように周囲を巻き込んで巻き込んで…。

(当然これらは時子さんの無意識のうちに行われている。またパチンコをしている翔真の動画をNPO法人の柏木は見せるが、もしかしたらそれは常識の範囲での息抜きだったのかもしれない。少なくとも翔真は自分で働いていて月15万~20万程は稼いでいる。完全なヒモであれば当然責められるべき行為はではあるけれどそうじゃない。本当にあれだけの短い動画で、そこまで罵られる程のクズなところが見られたのか…?)

 
最後に時子さんに謝罪したとき、翔真はほっとしたように見えた。
それはもう嘘や借金を重ねなくても良いと思うと同時に、
時子さんから解放される、という安堵だったのではないか…。

 

 

普通の人、だけど周りを狂わせる人。
そんなホラーな物語を私は感じた。
それはかつて私の側に似たような特性を持った人がいたからなのかもしれない。

 

 

 

 最後に

 

 

 

息子ーーー!逃げてーー!!超逃げてーーーーー!!!!

 

 

 

以上が私の観た時子さんのトキという物語。

 

 

 

これは私にとって恋愛モノではない。親子の愛を描いた話でもない。
敢えて愛と書くならば強固な自己愛なのかもしれない。

 

考えれば考えるほど、この作品は面白い。
噛めば噛むほど味が出る。
いったいどこまで考えられた脚本なのか。
(これだけ時子さんへの違和感が組み込まれているということは、この観方も狙って作られているんだと思う)

 

もしこの感想に共感する人が一人もいなくても
時子さんのような人が身近にいることを誰も気が付いてくれない…というホラーが成立するので非常に面白い。
でもね本当に、いるんだよ

 

そしてカット割りという一つの「演出」が入る配信も今からとても待ち遠しい。

 


だけどまずは明日、最後の2公演。
怪我無く全員で走り切れますように!!

 


面白い脚本とそれを演じ形にした役者・スタッフさん達、
コロナ禍の中でも舞台に関わって準備を進めてくださった方達
様々な対策をして見に行った人、苦渋の決断で見送った人。
本当に感謝。

 

 

 

 

これから配信で観る人達の感想も楽しみにしてるよーー!

 

 

 

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追記

 

いや、自分で返せない程の借金(750万)を実家への見栄で送金できる翔真も大概ヤバいやろ。

と睡眠を取った私の頭はやっと思い始めました。

 心底のクズでないにしてもどうやって返すつもりだったの………。

自分の周りに借金をする人は居たことがないのでその視点が抜け落ちるんだよなぁ。

 

大千秋楽を見る予定なので明日は改めて翔真のダメなところと向き合って観劇したいと思います。

 

 

 

 

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